スセリの日記3

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誤読引用と見当違いな解釈から始まった義経の性別物議

天外シリーズの残念な点として、解釈違いでファン同士が対立してしまうことが多々あり、ファン界隈はいろんな物議が醸し出されて泥沼状態になっていることがあげられる。

天外魔境に興味をもってもファン界隈の雰囲気が嫌で離れる人、元からいる人でもそういった物議が嫌でジャンルから離れた人もいる。

解釈に関しては、公式があえて曖昧にすることでファンそれぞれの受け止め方や解釈に任せている、十人十色な反応を期待するスタンスを名言しているならいいが、根掘り葉掘り質問して白黒はっきりさせたい(自分と同じ解釈の答えが出てくるまで質問を続けて追求する)ファンもいるため、沈静化していた物議が定期的に蒸し返されて論争を呼ぶ泥沼状態になることがしばしば起こっている。

 

ファン界隈で物議を醸し出しているという話題の一つに義経の性別論争がある。

義経というのは『天外魔境Ⅱ卍MARU』のサブキャラクターの一人である。千年前に活躍した火の勇者の一人で、聖剣・船海宮義経に宿る霊として登場して戦国卍丸に力を貸す。

天外魔境Ⅱ 卍MARU 公式ガイドブック』では

 

男装の麗人。つまり彼(彼女)は、正真正銘の女性である。なぜ男装する必要があったのかは不明。おそらく、人魚の血を隠す必要があったのではないかと思われる。

天外魔境Ⅱ 卍MARU 公式ガイドブック』、角川書店、1992年、155頁。

 

桝田省治氏による義経のプロフィールが紹介。「義経は人魚の血を隠す必要があって男装していた女勇者」である。この設定に大勢のファンが惹かれて、出番も少しだけの彼女メインで同人誌をはじめとする二次創作がたくさん作られた。本編であれだけの出番なのにこれだけの人気が出たのならば、本編でもっと出番が多ければヒロイン並みの人気キャラとなっていただろう。それだけのポテンシャルを秘めたキャラクター設定であり、桝田氏のキャラメイクがいかに神がかっているかその凄さを改めて実感する。

 

しかし、あるときからファン界隈での義経の扱いに影を落とすことになる。

発端は『天外魔境Ⅱ MANJIMARU 公式完全攻略絵巻』の用語集『天辞苑』の義経の項目の記述からだった。

 

PCエンジン版の「公式ガイドブック」には、義経男装の麗人であると書かれているが、現在ではこの情報は否定されている。そもそもこの設定を書き込んだのは、制作者である桝田省治氏自身なのだが、じつはこれはネタがなくなってしまった思いつきであるという。後年氏はインタビューの中でこの情報が嘘であると認めており、現在では義経は男であるということになっている。

天外魔境Ⅱ MANJI MARU 公式完全攻略絵巻』、エンターブレイン、2003年、383頁。

 

男装の麗人』『事情があって男装している人魚族の勇者』としての設定で人気があった義経のキャラクターが根幹から覆されることが書かれていた。

だが、引用元となった『俺の屍を越えてゆけ公式指南書~ソノ血、絶やさぬ為ニ~』桝田氏のコメントを読むと、桝田氏は義経の設定をデマカセから作った成功例としてあげていただけでまったく否定していない。もっと言えば『嘘』という単語すらないのである。

 

―― ここからは『俺屍』主要キャラクターのことを、桝田さんに直接解説していだたきます。ただし、先にお断りしておきたいのは、桝田さんには前科があるということです。

桝田 実は昔、『天外Ⅱ』の本でキャラの設定を書いたんだけど、ホントにネタがなくなって、「この人は男の格好をしているけど、実は女で……」ってデマカセを書いちゃいました。すいません。

―― ということです。ここでは、桝田さんのそんな「後付け」も含めて、おおらかな公式見解とさせていただきます。

桝田 設定自体後からつけたんだからなぁ。でも、つじつまが合ってるんだから、それで大丈夫だよ(笑)。

俺の屍を越えてゆけ公式指南書 ~ソノ血、絶ヤサヌ為ニ~』、アスキー、1999年、284頁。

 

義経男装の麗人設定はその場のデマカセ(思いつき)から生まれた『後付け』設定だがつじつまが合っているから(インパクトあるキャラクターになって人気も出たし)それ(男装の麗人設定)で大丈夫であることを桝田氏は語っていた。

桝田氏はそういった思いつきやデマカセから作る設定やキャラメイクもする人で、別に嘘であると認めていないし、否定もしていない。そもそも『嘘』という単語すら出ていないのは読めば一目瞭然である。

この桝田氏のコメントを読んだ後で天辞苑の義経の項目を読むと、自身の解釈を織り込みながらあることないこと付け加えていて、まさに拡大解釈した週刊誌の記事みたいな内容であるのがわかり、見当違いな解釈を正当化するために桝田氏が嘘だと認めているとまで書いたライターの書き方には作為的なものを感じた。さらにライターは桝田氏のインタビューがどこに載っているのについて引用元を明かさなかったため、『俺の屍を越えてゆけ公式指南書~ソノ血、絶やさぬ為ニ~』のインタビューのコメントを読んで事実確認するファンは少なく、義経男装の麗人設定はでまかせで桝田氏は嘘設定を公然と書いたと誤解されてしまい、ここから義経の性別についての論争や解釈違いによる物議、桝田氏に対する非難が始まった。

それによってファン(主に義経のファン)は失望して、男装の麗人設定の義経を推していることを批判されたことでいづらくなってジャンルを離れるファンもいた。男装の麗人設定が好きなファンをゲーム内のキャラになぞらえて蔑むファンもいて、あちこちでジャンルの闇を見た。

 

 

桝田氏も自分の発言をそういうふうに使われるとは思わなかったようで、後に『俺の屍を越えてゆけ 新説・公式指南書』で自分の発言について説明していた。

 

「僕は嘘なんかついてないよ? そもそも僕は自分ができると思ったこと、考えたことしか言わないしなぁ。だから僕の言葉は嘘に見えるけど嘘じゃないんだよ(笑)」

俺の屍を越えてゆけ 新説・公式指南書』、エンターブレイン、2011年、406頁。

 

わざわざ「僕は嘘なんかついてないよ?」「僕の言葉は嘘に見えるけど嘘じゃないんだよ(笑)」と書いて、見当違いな解釈を書いた天辞苑のライターに対する苦言を呈していた。あの一件で桝田氏は『天外魔境Ⅱ 卍MARU 公式ガイドブック』に記載した設定も含めて自分が語った設定がデマカセや嘘ではないかと疑われて意見や苦情が寄せられてしまったのだろう。

桝田氏はデマカセが本当になる(嘘がまことになる)設定作りもしていて、天外Ⅱの義経はその例だったことを伝えただけなのに、それが誤読引用されて違う形でファンに伝わってしまったのは大変気の毒である。

ちなみに桝田氏の著書『ゲームデザイン桝田省治の発想とワザ』でも桝田氏がそういったキャラメイクもすることが書かれている。

 

 

天外魔境 第四の黙示録』ではメインキャラの一人で火の一族の女戦士・夕能の武器として『義経の弓』が登場するが、これの説明文は

火の一族最高の女戦士の武器

である。2006年7月13日発売のPSP版は色々と内容が追加・変更・削除されているが、この武器の説明はまったく変わっていない。

上述の2003年12月19日発行の『天外魔境Ⅱ MANJI MARU 公式完全攻略絵巻』の天辞苑の記述

 

義経男装の麗人であると書かれているが、現在ではこの情報は否定されている。

現在では義経は男であるということになっている。

天外魔境Ⅱ MANJI MARU 公式完全攻略絵巻』、エンターブレイン、2003年、383頁。

 

が正しく現在は義経は男であるというなら、公式もPSP版制作時に修正しているはずであるがまったくそのままである。このことからも、公式は義経は女性設定としているのは明らかであり、天辞苑の記述が公式と関係ない一ライターが桝田氏の発言を誤読引用(もしくは悪用)して好き勝手書いただけの間違った設定だと証明されている。

 

天外魔境シリーズの絵師・辻野寅次郎こと辻野芳輝氏も自身のコミッション動画の中で『どこかでこれ(義経)は女性だっていう話を聞いた』と話していて、公式スタッフ間では義経は女性扱いだったようである。

辻野氏が義経の性別の質問に対して、動画ツイッターアカウントで『当初、少年のつもりで描いた。後々女性だという話を聞いて『JIPANG7』のときは男の子っぽい女性で描き直した。』と回答していて、義経は女性(男性っぽいけど実は女性というキャラ)設定であることが明かされていた。

www.youtube.com

 

 

辻野氏から『義経は)男の子っぽい女性』であることが語られていたことで、その動画やコメントに喜んだり安堵したファン(主に義経のファン)も多く、これで離れた義経ファンも少しは戻ってきて泥沼な性別物議が終わったかと思いきや、別の動画で酷い誤植説明をされたうえ、『公式に「男」ということになった』と説明されていて、テロップ作成者の杜撰な設定把握や扱いによって、またもや性別物議が蒸し返されてしまった。

これには大勢のファンがドン引きした。実際、該当動画の配信後、いつもは反応しているファンたちがそろって無反応(前述の辻野氏の動画のときとは真逆)で、そのことについてまったくふれてないか、恨み言を言ってジャンルから離れたか、すごくわかりやすい状態だった。

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ひどすぎる誤植説明に関しては現在ボカシが入っているが、義経の説明はそのままであることから、テロップ作成者は公式設定(女性)ではなく天辞苑設定(男性)支持であるのは明らかで、「公式に」という文言を入れてあたかも公式設定であるとアピールしてさらに「男」とかっこつきで念押ししているテロップ作成者の主張ゴリ押しには笑ってしまう。大事なキャラ紹介文にこんなどうでもいい自分の主張を入れる必要があったのか。

もしかしたら多忙で履修不足だったために天辞苑でしか義経の設定を確認してなく、他に書くことが考えられなかったのかもしれないが、公式設定を無視して、一介のライターが誤読引用して解釈した設定を公式動画で「公式に「男」ということになった。」と堂々と拡散してしまったことは大変遺憾であり、逆に大勢のファンを失望させて信用を損なっただけでなく、テロップ作成者も自身の確認不足や杜撰な説明によって恥を晒すことになってしまった。

しかもこれは前述の辻野氏の解説を否定することにもなり、桝田氏のように辻野氏も自身の言葉の信用を損なうことにもなりかねない。歴史は繰り返すと言うが、天辞苑ライターの曲解した記事で桝田氏が非難されたように、テロップ作成者の誤った設定記述によって辻野氏が非難される口実を作ってしまったのである。

事実、SNSで「テロップで説明している→辻野氏が言った」と解釈したファンが怒りや不満をツイートしていた。辻野氏にとっては事実無根で大変不名誉である。動画を見直せばテロップで説明されていただけで辻野氏はそんなことは一言も言ってないのはわかるが、動画を見直すことすら嫌悪しているようである。「嫌なものは見ない」は正しい考えだが、うろ覚えの内容が独り歩きして、辻野氏の評判を貶め、制作スタッフですらない人間が作成したテロップの設定が公式だと誤解している人がいる状態は大変嘆かわしい。

テロップ作成者が誤った設定を公式だと拡散したことによって、辻野氏によって収束したと思われた義経の性別物議が蒸し返され、ファンを混乱させただけでなく、公式動画の義経に対する酷い扱いやいいかげんな説明にファンがショックを受けたり不快を感じたりして、中には恨み言を言って離れたファンもいた。その影響はこの回以降の第二期各話の再生回数の少なさに顕著に表れている。第二期で再生回数が比較的多いのは初回と最終回だけであり、後から配信された第三期各話の再生回数の伸びと比較すると大違いである。それに加えて義経の性別が女性であると回答されている辻野氏の動画の再生回数の伸びが多いことから、内容に疑問を感じて辻野氏の動画を見直したファンがいかに多いことがよくわかる。

 

昔、天外同人誌を月ごとに発行していた熱心な天外ファン(義経ファン)が現在は公式垢以外天外界隈とあまりつながってなかったりジャンルから離れているのは、こういった性別論争に嫌気がさしたのだろう。

 

はっきり言って、義経というキャラクター(特に性別)はもうふれずにそっとしておいた方がジャンル的にも平和である。

何故、脇役で出番も少なかった義経がこうもたびたび取り上げられるのか?他にもっと取り上げるべきキャラクターは大勢いるだろうにと思い、Pixivや天外界隈のSNSを見ると、熱心な義経ファンがまだいるようで、そのファン向けのサービスでたびたび取り上げているようである。FX版天外ⅢもFX版がグッズイラストに起用されたりしてクローズアップされるなど、応援し続けている熱心なファンに対するサービスはいくつもあった。だがそのファンの公開作品を見たかぎり、義経は公式設定(女性)で二次創作や同人誌を作っているファンなので、天辞苑設定ゴリ推しで「男」だと強調し続ければ、いなくなった過去の義経ファンのようにジャンルに嫌気がさしていずれいなくなるのではないか。実際、天外ジャンルは作品自体は好きだがファン界隈の雰囲気が嫌になって離れたファンが多い。

 


義経というキャラクターの不幸な点は、男装の麗人でわけありな少女としてファンから支持されていた、その設定によって大勢の二次創作や同人誌で扱われて人気があったにも関わらず、天辞苑ライターの誤読引用と見当違いな解釈によって男性だという設定がファンに拡散されて誤解されてしまい、さらに性別論争が起こり、ファン同士の対立やファン離れが起こってしまったことである。

大型ジャンルに比べたら少数とはいえ同人誌まで作っていた熱心なファンまで逃がしてしまったのはキャラクターにとって大きな損失であり、今でも性別を間違えて把握している人によってファンに誤解と混乱を与えている、こんなややこしい問題を抱えたキャラクターはそうそういない。

二次創作や同人誌もジャンルやキャラ人気を支える基盤だが、そんな熱心なファンまで離れてしまった義経は哀れである。天辞苑ライターが桝田氏の発言の意図をきちんと解釈して用語集作成にあたっていたら、性別論争など起こらず、義経ファンの作家は現在も活動していたかもしれないし、その作家の二次創作や同人誌を見て興味を持つ人が出てきて新たなファンも獲得できたかもしれない。

 

こんな主要人物でもないちょっと出番があるだけのサブキャラクターに関して、公式とは関係ない第三者の誤読引用と間違った解釈から物議が今も続いているところは悲劇と言うべきか喜劇と言うべきか。

 

 

Alfa・MARS PROJECT COLUMN 桝田省治コラム

『天外魔境Ⅱ卍MARU公式ガイドブック』の設定が掲載

 

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