スセリの日記3

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天外魔境Ⅱのはまぐり姫は何故愛され続けてるのか

はまぐり姫というと天外Ⅱのはまぐり姫を思い浮かべるという人は意外と多い。はまぐり姫は敵キャラクターでありながら、昔からはまぐり姫メインの同人誌や二次創作(とは言っても大半が成人向だが)が作られるほど人気があるキャラクターである。何故ヒロインでもない、もっと言えば前半に登場してすぐに退場したはまぐり姫は今でも愛されているのか。


はまぐり姫は幕間の三博士の報告シーンで初登場して、それ以降は台詞の中でのみの登場にとどまり、卍丸と直接対峙するのは幻夢城内である。つまりなかなか登場しないのである。

はまぐり姫は幻夢城に入るまで出番はまったくないが、あちこちではまぐり姫の悪行がみられた。

 

越中にある美女平村では、娘たちに首から上に貝殻をかぶせる呪いをかけていた。娘たちは容姿が異形になったばかりか、食事もできなくなり衰弱していずれ死んでしまう状態で、娘たちのみならず家族をも苦しめていた。娘たちに対する仕打ちに村人たちの怒りは深く、村人たちの台詞から根の一族やはまぐり姫への恨みが生々しく表現されていた。だがリメイク版では、神社の入り口にいる村人の台詞が『ぶっ殺す』から『ぶっ倒す』に変わって村人たちのヘイトが抑えた表現になっている。

村人ははまぐり姫が自分以外の美人をこの世から消そうとしていると思っていたが、そんな単純な気持ちからではないのが後に判明する。だが娘たちはいずれ衰弱死するか自殺しかねない陰険かつ悪質な行為には変わりなく、どんな事情があったにせよ、決して許される行為ではない。

 

また越中にある弥陀ヶ原洞窟では卍丸の姿をしたザコ敵が2種類登場する。『逆卍』と『卍くずし』というザコである。

どちらも顔は卍丸そっくりだが、『逆卍』は首から下が小さく、『卍くずし』は首から下が大きい、なんともいびつな姿をしている。それを生み出したのは誰なのか不明だが、はまぐり姫だとしたら興味深い。いびつな姿をしている逆卍と卍くずしは、はまぐり姫にも共通している部分(後述)がある。

はまぐり姫は幻術の使い手である。幻夢城でも卍丸の故郷を再現し、母親に見事に化けていた。そんなはまぐり姫がこんないいかげんなザコ敵を作り出すとは思えず、この卍丸似のザコ敵2種類の存在は今も謎に包まれている。

はまぐり姫への卍丸への想いの表れ(相当卍丸を嫌っているか相当好きかどちらか)と解釈しているファンも何人かいて、それを二次創作の漫画として描いていた作家(はまぐり姫ファン)もいた。

 

そして幻夢城では、はまぐり姫は幻術を駆使して卍丸の故郷を再現し、自身は卍丸の母になりすまして待ち構えていた。

卍丸の母親になりすまして卍丸の油断を誘ったり、カブキになりすましてだまし討ちをさせようという狡猾さを見せた。

 

 

美女平村の娘たちに呪いをかけて苦しめたり、卍丸そっくりのザコ敵を大量発生させたり、配下のワダツミ五人衆を使い越地方を蹂躙し人間たちを殺戮し、卍丸にとって大事な故郷と母を自らの罠に利用した。こう書き並べるとヘイトを集めて当然の悪女である。

そんな悪役が何故人気を得たのか? 

ビジュアル的にとても受けるキャラクターデザインやCVは惹かれる要素であるが、やはりはまぐり姫の最期とその後明かされる真実にある。

 

根の将軍はたいてい二連戦である。初戦では登場時の姿のまま(いわゆる第一形態)で戦い、その次に真の姿を現して第二の戦いとなる。ちなみにこのときは戦闘曲も変わる。鬼骨城の死神将軍、密林城の城主・菊五郎、それぞれが面妖な第二の姿を見せていた。はまぐり姫も例外でなく第二の姿を見せた。

この はまぐり姫 ちと お主らを
見くびって おったようじゃ…
見せねば なるまいのお
まだ 誰にも 見せたことのない
わらわの 生まれたままの姿を…

そう言ってはまぐり姫は卍丸に自分の本当の姿をさらけ出す。

『生まれたままの姿』子供にはぴんとこないが、それなりに成長していたなら、この言葉の意味がわかってドキッとしたはずである。さらにそれを煽るかのような視点のビジュアルシーンに興奮したり期待したプレイヤーは多い。だがはまぐり姫がさらした『生まれたままの姿』とは見るもおぞましい化け物であった。

リメイク版はビジュアルシーンのはまぐり姫の美しさが際立っているが、同時に醜さも生々しく表現されている。

 

そしてはまぐり姫を倒した後のシーン。はまぐり姫最期の断末魔。このシーンが大勢のプレイヤーの心にささった。

BGMが物悲しい曲「根の一族に殺された者たちへのレクイエム」に変わり、死にゆくはまぐり姫は本心を、ヨミへの恨みを口にする。これがはまぐり姫の本音だった。

そして卍丸に「自分が人間として生まれ変わってもう一度出会ったら…」と切々と問いかける。

この最期の切ない台詞が大勢のプレイヤーの心に深く響いた。

ヨミが自ら造りだした、三博士の台詞からもヨミ自身思い入れの深い娘だったはまぐり姫。絶世の美女であり、さらにヨミの寵愛を受けて、はたから見ると羨望の的だったろう。だがはまぐり姫は、自分の真の姿に対するコンプレックス、根の一族に生まれてきたから卍丸と敵対しなければならない葛藤、普通の女に生まれてきたかった苦悩を抱いていたことがこのシーンに集約されている。

エンディングでは望んだままの人間の姿で生き返ったはまぐり姫が卍丸の元に押しかけ女房して男女の関係になる同人誌もあることから、いかにこのシーンがファン(特にはまぐり姫のファン)に強く印象を与え、はまぐり姫の幸せを願ったかを物語っている。

 

その後、極楽太郎がはまぐり姫を忘れろと言うこのシーンで、さらにはまぐり姫のイメージを印象付けている。

わざわざ選択肢まで用意してプレイヤーに問いかけているシーン。はいといいえ、どちらを選んだかはその人によるが、大半がいいえを選んだことだろう。

このシーンと極楽の台詞によって、はまぐり姫は単なる敵ではなく、卍丸そしてプレイヤーに鮮烈な印象を残したキャラクターとなった。

 

最後に極めつけは越前の人魚村にいる人魚たちの台詞である。

人魚の姫を助けた後、一人の人魚は卍丸にはまぐり姫に気をつけるように警告していた。

そしてはまぐり姫討伐後に話しかけると、はまぐり姫の過去について語ってくれるのである。

 

「はまぐり姫の正体は人間にしてやると根の一族に騙された人魚の成れの果て…」と悲しそうに語る。この真実ははまぐり姫をさらにプレイヤーの心に深く印象付けた。

他にもはまぐり姫の末路を悲しんでいる人魚もいる。

 

人魚たちの態度からはまぐり姫の正体が越前の人魚村にいた人魚だったこと、ヨミが騙した人魚を元に造り出したのがはまぐり姫だったことがさりげなく明かされている。

かつての同族の悲劇を悲しむ人魚たちの台詞は、はまぐり姫という女性の悲しさと不幸を鮮明にしてプレイヤーに訴えかけている。人間にしてやるとヨミに騙されて化け物にされた悲しき人魚だったという明かされた真実に、はまぐり姫への思い入れがさらに倍増したファンも多い。まさに悲しき悪役、悲劇のヒロインである。

 

 

悲劇的な死に方をしたはまぐり姫がエンディングで極楽太郎の背後のモブに混じって登場しているのを見た時は誰もが驚いた。

しかも願い通りの人間の姿での再登場にファンは感激しただろう。はまぐり姫も含めて死んだ者たちもマリの神様パワーで生き返り、まさに大団円なエンディングだった。

それぞれの火の勇者の背後にいるキャラがそれぞれが生き返ってほしいと願ったキャラだとしたら、はまぐり姫を生き返らせた(しかも人間として)のは極楽太郎だろうが、まさに嬉しいサプライズであり、よく願ってくれた!と思ったファン(特にはまぐり姫ファン)は多いだろう。

 

はまぐり姫は見た目やCVや悲劇的な設定からファンの多いキャラクターであるが、根の将軍として殺戮を行い、身勝手な嫉妬から呪いをかけて美女平村の娘たちを苦しめるなど、プレイヤーによっては不快に感じるキャラクターでもあり、エンディングで生き返ったことに納得できないファンもいた。しかしビジュアル的には美女であるため人気は高い。やはりキャラクターは見た目が重要だと実感する。

 

はまぐり姫は戦闘時の動きも美しい。金髪がなびく華麗な動き、妖艶な手の仕草、たわわに実った巨乳も見事に表現されていて見惚れてしまったファンは多い。

オリジナル版の動きも魅惑的で美しかったが、リメイク版はさらに磨きがかかっている。踊り子を思わせる華麗な動きは必見である。


こうして数々のシーンと共にふりかえると、美しいキャラクターデザインとビジュアルシーンと悲劇的な設定を持つはまぐり姫は、大勢のプレイヤーを魅了したのも納得のキャラクターである。
大人から子供まで大勢のプレイヤーの心に鮮烈な印象と思い出を残したはまぐり姫は、ゲーム発売から30年という月日が過ぎても忘れずにはまぐり姫が好きと公言するファンも多い。

そういったファンの要望に応える形で、天外Ⅱの千年前を描いたスピンオフ『天外魔境JIPANG7』では人魚時代のはまぐり姫「蜃姫」が登場し、クエストイベント内でプレイヤーと関わるシーンが描かれていた。
このJIPANG7で、はまぐり姫は千年前の戦いの時はまだ人魚であり(ヨミに改造される前)、根の将軍でもなく、義経が戦った幻夢城の城主は「ジャカアシ教授」というイヒカ人の科学者だったことが明かされていた。

千年前は一般人だったはまぐり姫(蜃姫)は強気な言動だが困ったことがあると大泣きするギャップ萌えなお姫様として描かれていて、人間になりたくて旅をしている途中でプレーヤーキャラと出会うことになる。若き日のはまぐり姫は、現在のはまぐり姫とはまた違った魅力を持つキャラクターとして際立っていた。JIPANG7はオンラインゲームだったゆえにサービス終了した今プレイ不可で、現在は当時のニュース記事や画像が検索結果に表示されるのみだが、普通に家庭用ゲームソフトとして発売されていたらと残念でならない。

 

 

はまぐり姫は同人誌を作る熱心なファンがいることも特徴である。

天外魔境シリーズは多数のキャラクターが登場し、キャラクターによっては固定ファンがいる。だが同人誌まで作るほどの熱心なファンとなるとそうそういない。

同人誌というものは作るのが大変面倒なものである。手間だけでなくお金も数万単位でかかるからだ。さらにその同人誌を売りさばくためのイベントにも参加しないといけない。今でこそとらのあなメロンブックス等の書店委託は気楽に利用できるようになったが、昔は書店に同人誌を送っても書店担当者のおめがねにかなわないと委託すらできなかったのである。とらのあなは特にそれが顕著で書店担当者のえり好みがすごく、そこそこ絵が上手くても審査が通らず容赦なく断られたサークルもたくさんあった。書店委託を断られたサークルは自家通販(サークルで直接通販する方法)しかない状況だった。

それに同人誌は必ず手に取ってもらえるわけではない。やはり見た目が9割で作家の画力もおおいに影響する。頑張って作った本がイベントで誰にも手に取ってもらえないこともある。コミケなどの大型イベントならともかく、地方のイベントではさらに難しい。在庫を抱えかねない状況で、同人誌を作ってイベント参加までするなら、そのファンのキャラへの愛は本物であると言っていい。

天外魔境も90年代の絶頂期には大型ジャンルほどではないにせよたくさんの同人誌が世に生み出された。しかし2000年以降になると、リメイク版発売があったにせよ、さっぱり見かけなくなった。

だが、今でも数年おきとはいえ同人誌を作り続けている熱心なはまぐり姫ファンの作家もいて、定期的にコミケに参加して本やイラスト色紙グッズを作っている。はまぐり姫は成人向けのネタで描かれることが多く、作られる本はたいてい男性向けだが、同人誌の中で想いを寄せた卍丸との話を描かれているのは、はまぐり姫というキャラクターにとって幸せだといえよう。同人誌を読んで、はまぐり姫というキャラクターをさらに好きになったり、はまぐり姫というキャラクターを思い出したり、興味を持ったりする人もいる。同人誌というもっとも面倒でお金のかかる推し活動で応援するファンがいるはまぐり姫は幸せだと改めて実感する。

 

それから卍丸の女性関係についてだが、卍丸の相手役にはヒロインの絹がいて、天外Ⅱ終盤~エンディングにかけて二人はまさに公認カップルだった。だが『天外魔境 風雲カブキ伝』で、絹はカブキにあてた手紙で「卍丸さん…極楽さん…二人も強かったけれどカブキさんが一番ステキだったかも」と語っていて、絹が卍丸からカブキに心変わりしたような描写があった。

天外2では『卍丸』呼びだった絹が『卍丸さん』とさん付けしてるなど、ずいぶんよそよそしくなっているのがわかる。

京スポの記事『実話!!愛の系図』でも絹が卍丸に見切りをつけた内容の記事が書かれていた。

極楽太郎の場合は『天外魔境 真伝』で千代と子沢山の円満家庭を築いていたことから痴話喧嘩程度だと思われるが、卍丸と絹に関しては卍丸がマザコンで絹が絶望したなど散々な描かれ方で、まさに公式の手の平返しである。

天外魔境 真伝』では卍丸と絹の関係はさらに薄くなっている。互いに戦うプレイヤーキャラ同士という構図も影響しているかもしれないが、絹はエンディングで「あなただけが頼りよシロ」と飼い犬のシロに語り掛けていて、卍丸のことはすっかり忘れて、卍丸との関係は自然消滅したような状態だった。

天外Ⅱでは文句なしに公認カップルだった卍丸と絹のその後のシリーズにおける自然消滅があるから、「卍丸の相手は絹しかいないでしょ!」「卍丸が絹以外の女とくっつくなんてありえない」等カップリング論争が起こることもなく、なおさら同人誌や二次創作ではまぐり姫と卍丸の関係を描いた話が多く描かれたのかもしれない。またはまぐり姫の同人誌の大半は男性向けであるが、男性向け界隈ではどのジャンルでもカップリング論争は起こることはあまりなく、卍丸ははまぐり姫以外にも百々地三太夫との関係を描いた本も作られるなど様々な女性キャラとの話も幅広く描かれていて(実際ゲーム内では卍丸は女性陣からモテモテだったため)、作家やファンが大らかであることも救われていた。

絹は強い決意をもって身に着けそして両親の敵討ちのために自ら解き放った『純血の鎖』を後のシリーズではアクセサリーのように身に着け(自分の真の力を解放する時の演出アイテムとして使用)、さらに飼い犬(シロ)をけしかけて戦うヒロイン化するなど、天外Ⅱ以降はキャラがかなり変わってしまっている。はまぐり姫は天外ⅡとJIPANG7のみの登場で、JIPANG7でも絹ほど極端なキャラ改変されることはなかった。

絹のように後のシリーズで愛した男(卍丸)と決別して儚げなヒロインから一転して戦うヒロイン化することもなく、義経みたいに女性であるにも関わらずリメイク版攻略本で「公式に男性とされた」とライターの誤った解釈による間違った設定が拡散されてイメージを損なわれたりすることもなく、はまぐり姫はキャラクター設定や扱いも現在に至るまでずっとブレることはなかったので、なおさらファンは安心して応援でき、二次創作や同人誌でのびのびとはまぐり姫愛を描くことができたのだろう。

美しいキャラクターデザイン、悲劇的な設定、そして天外Ⅱ以降もキャラクターとしての設定や扱いも変わらない、厄介なカップリング論争や物議もない誰にも気兼ねなく安心して応援できる土壌、そして昔から変わらず愛してくれるファンがいる。こうして振り返ると、はまぐり姫はキャラクターとしてとても恵まれていて幸せである。

 

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